一つ、二つ、次々に現れて。
私の目の前でパチンと消えてなくなるそれに、自分を重ねてみて胸の奥にもやもやしたものを見つけた。
月明かりに照らされて、いつもより多くの光をはじき返すシャボン玉の来た先に、ゆっくりと視線を移してみる。
夜の暗い闇の中、キラキラと輝くシャボン玉と、それを作る幼馴染がいた。
そうか、今日は満月か。
暗いはずなのに、縁側に座る彼の姿がはっきり見えることで、それを知る。
輝く光に誘われて顔を上げれば、もやもやしたものが光に洗い流された気がした。
月夜と し ゃ ぼ ん だ ま
なかなか寝付けなかったこともあって、私はシャボン玉の親の元へと足を運んだ。
と、言っても家を出て数十秒で着く場所だけど。
「声くらいかけろよ。」
そっと近付いた私に向かって、驚いたと亮介が笑う。
こっちと亮介の手が指し示す場所は、彼の隣だった。
ぷぅっと膨らんで、空に舞う。
月の明かりに照らされてキラキラ光るシャボン玉は、ガラス細工のようだと思った。
そしてすぐにはじけて消えてしまうのだ。生まれた意味さえも見出せずに。
「どうした?」
亮介がシャボン玉を生み出しながら、ぼーっとそれを見つめる私に問う。
急な質問に驚いて目をやれば、彼の視線は空へ浮かぶシャボン玉に向けられたままだった。
「ただ、半開きになったカーテンを閉めようとしたら、シャボン玉が見えて。」
どこから来たのか視線をずらせば亮介がいた。だから、ここに来た。
そんなことを答えれば、亮介はお前の部屋から俺ん家の庭丸見えだもんな、なんて軽く笑う。
「おじさんとおばさんは?」
「もう寝た。結構歳だぜ?あの二人。」
だからあまり騒ぐなよなんて、亮介は少し笑った。
二つ年上。
たったそれだけの差なのに、亮介は私より随分も大人びて見えた。
こんな笑いも、クラスメイトの男の子とは違うように感じる。
クラスメイト。大人への道を踏み出そうとしているけれど、大人にはまだ遠い私たち。
でも、私のクラスメイトはみんな自分のやりたいこと、目標にするものをみつけていた。
そしてそれに向かい努力をする。私はまだ踏み出す準備もできていないのに?
そんな自分に呆れて、ここにいる意味を見いだせなくて。
心がいつも重く、目を閉じたくなるのだった。
「シャボン玉は、少し悲しいね。」
「……は?」
「だって、生まれてもすぐに消えてしまう。自分の生まれた意味なんて、絶対知らない。」
私はそれが少し怖い。
さっきから、思っていた。これらはどこか少し、私に似ているような気がしたのだ。
自分もそのようになってしまったらどうしようなんて、くだらないことを考えてしまう。
この先、何も生きている意味を見出せず。
ただなんとなく恋をして、なんとなく結婚をして、なんとなく生きる。
そんな価値のない人生を歩んでいくのではないか。それが怖かった。
「ばーか。また変なことでウジウジ悩んでんだろ?」
亮介はそう言うと、私の頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
そして満足そうににっこり笑うと、更に言葉を続けた。
「俺も、あったよ。そういう時期。お前みたいな、受験生の時。」
しゃべる合間にも、シャボン玉は亮介の息吹で数を増す。
月夜のシャボン玉が、こんなに綺麗だなんて知らなかった。
「でも。こんな儚い命のシャボン玉も、人を魅了する力はあるだろうが。」
「……。」
「生まれた意味なんて、知らなくていいんだよ。今精一杯生きてれば、それで。」
月が、眩しかった。
ちらりと盗み見た亮介の顔も、いつもよりかっこよく見える。
「……亮介……オヤジ臭い……。」
いつもとは違う変な感情が心の中に煌いて、それが少し恥ずかしくてそんな言葉を吐いた。
私の言葉に、亮介は笑うことも、抗議をすることもなく。
ただ、優しく暖かい大きな手で、私の頭をそっと撫でた。
不思議だ。
月の明かりはこんなにも綺麗だっただろうか。
目の前の月が、じわりと涙で滲んだ。
そんな私を励ますかのように、数を増し煌くシャボン玉。
儚く消えても、今日この景色をきっと私は忘れない。
短い命。
でも、必死に生きたこの、シャボン玉を。
終
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