結局、自分の手には何かを残したんだろうか。
土手の草むらに足をほおり出して寝転んだ。
ぐるぐると回る頭の中の考えが、なかなか晴れなくて表情をゆがめる。
好きだった。
私だって好きだった。
失 恋 少 女
梨香が相談してきたのは、2年の終わりごろだった。
もうすぐ3年で、卒業したらもう終わりだから。
そんなことを私の前で平気で言い切った彼女に、私も彼が好きなんだと言えないまま。
協力してくれる?と非情なことを言い放つ彼女に、首を下に落とすしかなくて。
バカだ自分はものすごくバカで仕方がないんだ、と家に帰って塞ぎこんだこともある。
言おう言おうと思っているうちにずるずると月日は流れ。
いつの間にか私は恋のキューピッドとなってしまっていた。
バカらしい。
あまりのバカらしさに、涙が出てきそうなくらい。
恋のことで自分が泣くだなんて、ちっとも思ったことはなかった。
女々しい、悔しい、悲しい、バカらしい。
浮かんでくる全ての言葉が私に当てはまる。
「くそぉ〜。」
下唇をかんで、出てきた言葉はそれ。
私だって、大好きだったんだよ。
意外に笑ったら可愛いところとか、さりげなく優しいところとか。
天然が入ってて、いつも先生にあてられた時にはまともに返事を返せないとか。
席が隣になれば、毎晩次の日が楽しみで眠れなくなったし。
話しかける時にだってちょっと緊張した。
彼が持っている小さな癖を、こっそりと見つけるのが楽しみになったりもした。
私のほうが先に出会って、梨香よりも前に好きになったし。
私のほうがいろいろ知ってることも多い。
なのに、なのになのになのに……
涙が一粒零れ落ちた。
木々を揺らす風が、その部分を冷やしていく。
もう春だというのに、風はこんなにも冷たい。
まるで、私のようだね。
もう春だっていうのに、心は寒い。
「里江子〜?」
突然の声に驚きながらも振り向けば、そこには私の会いたくない二人が立っていて。
急いで涙を拭いて、ニッと笑った。
「何々?お二人さんはデート?」
「そう!ドーナツ食べて帰るんだよね〜。賢介のおごりで!」
「冗談!割り勘だって!」
慌てて言うその人物は、確かに私が想いを寄せていた人で。
笑う表情を向けてほしかったのも私なわけで。
歪みそうになった表情を必死でこらえた。
私にだってプライドはあるんだよ。もうすでにズタズタかもしれないけれど。
「協力したんだから、今度は私に協力しろよ!」
梨香を腕でつつきながら言うと、梨香は驚いた表情を浮かべた。
風でなびく髪を手で押さえるしぐさは、私が見ても女の子らしくて可愛い。
だから、梨香を嫌いにはなれなくて。
「何?里江子って好きな人いた?」
感傷的になっていた心情を梨香の応えで引き戻す。
好きな人といわれて彼を見そうになったのを、一瞬で抑える。
「紹介しろ〜!」
叫びながら、二人に抱きついた。
ほのかに感じる彼の体温が暖かくて、同じように梨香の体温も暖かくて。
これから二人はいろんな想いを重ねていくんだろうって思って、心が泣いた。
切ない、痛い、虚しい、寂しい。
いろんな感情が渦巻いている。
恋は疲れるね、大変だね、思い通りにいかないね。
私は彼が好きだった。
全てを過去にして、当分は恋をしないと決めた。
私は彼が好き、だった。
END
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